恋愛初心者と昔の記憶

 

 好きな人と付き合える。それがどれだけ幸せなことか。
 幼馴染で、家が近い。小中高と同じ高校。そして高三の今も、海藤駿と二人きりの新聞部在籍している。そんな笑っちゃうような漫画みたいな男の子と
やっと付き合える。
 幸せ。今なら十メートルはジャンプ出来そうな気さえする。
 ただ、付き合うってのは、仲が良すぎたり、友達期間があまりにも長すぎると、それだけ難しくなるらしい。だってお互いの事を知りすぎてるし、これまで
だって一緒に登下校したり二人きりで遊んでたから、付き合ったって何かが大きく変わるわけじゃない。恋人という肩書きが出来ても、何か強く変わった
という実感が湧かない。
 私は、新聞部の部室で友達の玲ちゃんと原稿を書いている。
 野々宮玲ちゃん。この子は生徒会新聞部に所属している。では、何故我が明清東高校の部員である駿ではなくて、他の部の玲ちゃんがうちの部室で
原稿書いているのか。それは、駿がペットのポチと散歩の約束があると言い、今日は部活に来てくれなかった。
「ねぇ綾ちゃん。一つ聞いていい?」と、玲ちゃんはコンビニのアイスを食べながら聞いてきた。
「海藤君はどうしたの」
「ポチの散歩。学校終わるなり帰った」
「ふーん。で、海藤君の書きかけの記事はどうするの」
「私、駿のへったくそな文字、そのまんま真似て書けるから」
「そこまで行くと気持ち悪いわね」
「なんでよ!」
 玲ちゃんはアイスを全部食べ終わると、足を組替えて背もたれによしかかる。
 長くて白い指は、赤色のマニキュアを塗った爪が目立つ。うーん。玲ちゃんはやっぱ大人っぽいなぁ。パーマをかけた髪も良い。
 私は背中まで髪伸ばしてる。でも、玲ちゃんみたいに髪をショートくらいにして、パーマかけようかなぁ。いや、似合わないか。でも玲ちゃんみたいに大人
っぽくなりたいなぁ。色気がほしい。
「玲ちゃん。そこ、青色のペンで宜しく」
「うん。ねぇ綾ちゃん。海藤君と、最近どうよ」
「なんかねー。想像してたのと違う。前なんかね、何してほしい? なんでもするよ! って言ったら、ポチの散歩してくれると嬉しいって言われたの。意味
わかんないっ!」
「海藤君らしいねぇ。でも、それはショックでかいね」
 まったくだ。駿はポチのことしか頭にないんだ。犬に負けるなんて。もっと気使うとか、色々考えてくれるとか、メール毎日くれるとか、それくらいしてくれ
てもいいじゃん! やっと恋人になれたのにっ。でも好き。
「海藤君鈍いっていうか、ぼけぼけーっとしてるからねぇ」
「本当だよ。次そんなこと言ったら、逆に駿の首に首輪つけて札幌の街中散歩させてやる!」
「それで海藤君が喜んだら私は面白いけどな」
「面白くないよ! 駿そんな趣味ないもん」
「まぁそうなんじゃない? 犬を散歩させてる間は安全でしょ」
「からかわないでよ。私はすっごーく真剣なんだから」
 玲ちゃんは笑いながら、私のほっぺたを人差し指でぎゅーっとつついてくる。反撃して定規で頭をぺちぺちと叩いてやったら、耳の穴にペン突っ込まれ
て更にいじられた。
 もう。どうせ私は玲ちゃんみたいに大人の余裕持ってないよ。私は全然ダメ。人から見れば全然どうでもいい事でも、どうしても悩んじゃう。どうしていい
かわかんない。
 何が正しくて、何をどうすれば良い道へ進めるのか。そんなのわからない。だいたい、この世の中もう何が正解で、どういう道がベストなのかわからな
い。
 わからないことづくめだ。進路も、遠い将来も、恋愛も。こんなにわからないことが人生はずっと続くのに、悩みながら強く生きないとダメ。強く生きないと
人生はとても辛いものだ。
 でもどんなに辛くても、駿がいればそれでいい。駿のためなら、他の全てを犠牲に出来る。
「玲ちーん」
「からかって悪かったから、変な呼び方しないで」
「私はどうすればいいの?」
「手っ取り早く、明日出会い頭にキスすれば?」
「それじゃ私痴女みたいじゃん・・・・・・」
「どうすればいいかは、貴方が一番わかってるでしょ。あの海藤君は、何をすれば感情をあらわにするのか。考えてみなさい。海藤君が、これまでに一番
怒ったときはいつ?」
 思い出してみる。高校では、駿が激怒したりした事はない。中学生・・・・・・。特に無いと思う。小学生は・・・・・・」
「そういえば小学六年の時、駿が凄く怒った事がある」
「えっ。あの海藤君が?」
「うん。確か・・・・・・。漫画。漫画雑誌でなんか怒ってたような気がする」
 さすがにそんな昔の事、詳しく覚えてない。でもとにかく、雑誌で凄い怒ってた。なんでだろう。思い出せない。
 でもあの駿が怒るんだから、単純な出来事じゃないだろう。それに、もし思い出せれば、駿がどういう事で感情を高ぶらせるのかわかる。それがわかれ
ば、私にピッタリになるきっかけになるかも。駿の感情を高ぶらせて、そして私に・・・・・・。
「玲ちゃん。今から暇?」
「暇だから新聞書いてるのよ」
「じゃあ、今から私の家に行こう。その雑誌、まだあるかもしれない」
「いいけど・・・・・・。そんな子供のころの漫画雑誌、あるの?」
「それを確かめるのよ。ほら行こう」
 という事で、原稿を書くのは明日にして、私達は学校を出た。

 てくてく歩いて、私の家につく。
 玲ちゃんを部屋にあげて、私はベッドにダイブした。
「で、綾ちゃん。その雑誌はどこにあるの?」
「うーんとねぇ」
 私は部屋の押し入れを開けた。玲ちゃんはブレザーを脱ぎ、床にぺたんと女の子座りしている。この子は、どうって事ない仕草にも気品を感じる。私の
女の子座りと何が違うんだろう。
 そんなことを考えながら押し入れをガサガサとあさる。
 玲ちゃんが近づいてきて、興味深そうに見ている。
「あんまり見ないでよ。恥ずかしいじゃん」
「でも海藤君にはなんでも見せちゃうわよって?」
「だからからかわないでよっ。あ、あったあった。これ、昔の雑誌たち」
 数十冊の雑誌を床に降ろす。
 少女漫画と漫画雑誌。問題の雑誌を探す。
「どれだっけ?」
「いや、私に聞かれても」
 記憶を頼りに探していると、それと思われる雑誌が出てきた。
 今も出版されている月刊の少年雑誌で、それの増刊号。読みきり漫画がほとんどだ。
 ぺらぺらとめくる。今見ると、なんだか幼稚な絵というか、よくこんなの読んでいたなと思う。人間成長するもんねぇ。
 高校生になれば、漫画よりもファッション雑誌をよく読むようになった。成長するとなると、私はおばさんになったら婦人向けの雑誌とか読んじゃうのか。
嫌だそんなの。そんなのは絶対イヤ。ずっと若い体のまま過ごしたい。ましてやしわのある顔なんて、駿に見られたくない。それなら消えてしまった方がい
い。
「綾ちゃん。この漫画雑誌で海藤君が怒ったのね」
「うん。これだと思う」
「どういうシチュエーション? 一緒に漫画読んでたの?」
「わかんないけど・・・・・・。学校だったような気する」
 玲ちゃんはまたぺたんと座ると、太ももに雑誌を乗せて考える。隣に座って、私も考える。
「まず、漫画読んで怒る事ってある?」と、玲ちゃん。
「えー。無いと思うなぁ」
 漫画のジャンルはギャグ、恋愛、ミステリものやら豊富である。
 まず、漫画を読んで何を感じるか。面白い。この言葉素敵。こういう恋愛憧れる。こんな立派な人間いねぇよ。このトリックは物理的にありえないでしょ。
絵うまい。絵下手。楽しい。悲しい。
 こうして考えると、漫画や小説ほど、頭で色々なことを考えるものはない。映画もゲームも、そうだよね。勉強はただ楽しくもない一つのことを、ただ考え
るだけ。でもそれは考えさせられてるだけであって、自分の感情が揺れ動き、素直に頭で考えているわけじゃない。
 だから小説とか漫画は素晴らしいんだ。これほど考えさせられる娯楽がどこにある。いや娯楽で終わらせれいいものでもない気がする。
 冷ちゃんはほっぺたをぽりぽりとかきながら、ページをめくる。
「こんな純粋な女いないよねぇ」と、恋愛漫画を見ながら言う。
「いないから、面白いんじゃん」
「まぁね。あと、この女胸大きすぎでしょ」
「そういう玲ちゃんはー?」
 タッチして確認すると、玲ちゃんは怪しい手つきで反撃してくる。
「キャッ。その手つきくすぐったいから!」
「おっ。綾ちゃん。これはなかなか・・・・・・」
 大きさは同じくらいだけど、今は女同士で胸触りあってる場合じゃない。考えないと。
「とにかく。漫画の内容っていうのは、全然見当違いでしょうね」と、玲ちゃん。
「じゃあ、漫画の何で怒ったんだろう」
「漫画の何がってわけじゃないんじゃない? 漫画が怒るきっかけになった」
「えー。漫画で喧嘩した覚えはないよ」
 うーん。私何か言ったかな? でも漫画の話をして喧嘩になるかな。ならないよねぇ?
「難しいね。人の記憶って曖昧。ていうか、高一の記憶とか詳しく思い出せる?」と、玲ちゃんが聞いてくる。
「ちょっと怪しいね。いざ思い出せって言われても出てこない。記憶ってさ、寝る前とかに急にピーンって頭に浮かび上がってこない?」
「うんうん。なんかさ、あんまり昔の記憶が思い出せないと、もしかして自分最近生まれたんじゃないかと思わない? いやそんなわけはないんだけどさ、
そう思ってもおかしくないくらい、最近の記憶って細かく思い出せない。なんか不安になる」
 不安か。人間は常に不安との戦いだ。それが人からみればくだらない事でも、本人にしてみれば命と等しいくらいの悩みや譲れない所はある。そこは
ちゃんと理解するべきだし、理解されたい。
 でも学校にはダメな先生が多い。生徒のことをぜんぜん理解しようとせず、自分の言い分を押し切る。そしてそれが正しいと思ってる。
 大人だって、たいして大人じゃない。大人っていうのは、年齢なんか関係ない。誰からも良い人と思われる人が大人なんだ。年齢だけで自分の主張を
押し切るやつはただの子供。
「ねぇ。この漫画さ、いつも買ってたの?」
「うん。この月刊誌は毎月買ってたよ。小五から小六の終わりごろまでかなぁ。で、この増刊号も買ったの。かなり気に入ってる雑誌だったしね」
「この雑誌は流行ってた? 綾ちゃんの友達の間で」
 うーん。その時の友達と言えば・・・・・・。
「今も付き合いのある可奈子でしょ。当時仲良かった美咲ちゃん。あと・・・・・・。あ、名前覚えてないけど、その時良く話してた男子も読んでたなぁ」
 玲ちゃんが、私をじっと見つめてきた。
「その男が怪しいわねぇ。どんな子だった?」
「えーと・・・・・・。カッコよかったかなぁ。あ、そうだ。女子の間でカッコいいって騒がれてた」
「綾ちゃんは騒いだ?」
「私は男には駿しか興味ないからなぁ」
「惚気はいいから」
「でも、カッコいいとか、言ったかもしれない」
 玲ちゃんは「それだ!」と言いながら、私をビシッと指差した。
「その子と何かなかった? この雑誌貸したとか」
「わかんない。本当に思い出せない。でも、あの頃は漫画とかの貸し借り流行ってたから、貸したかもしれない」
 よーく思い出してみると、確かに貸したかもしれない。カッコいいと言ったかもしれない。
「綾ちゃんはね、そのイケメンにこの雑誌を貸したの。で、海藤君にあの子カッコいいよねとか言ったのよ。それで海藤君怒ったんだ!」
「駿、そんな事で怒らないよ。それに、そんな嫉妬くらいで激怒しないよ」
「絶対そうよっ。嫉妬だよ嫉妬。海藤君はかなりの嫉妬野郎なのよ!」
「勝手に話進めないでよ。それは違うと思うなぁ」
 結局、記憶は曖昧だからわからない。思い出が頭の中にいくらあっても、全てが記憶されているわけじゃない。記憶されていても、頭からなんでもかん
でも完璧に思い出せるわけ無い。
 でも何も思い出せない今、それが一番ありえそうかなぁ。いや、多分そうなんだ。駿は私に嫉妬してくれてたんだ。
 うんうん。なんかそんな気がしてきた。なんだ駿。可愛い所あるじゃない。
「玲ちゃん。そんな気がしてきたよ、私。で、私は嫉妬という黒船来航に、どう対処すればいいのかしら」
「黒船ごとき、撃退どころか包み込んじゃいなさい。ぎゅっと。ぐっと。ぐぐぐーっと」
「意味わかんないよ」
「ま、とにかく。嫉妬されるくらいイメチェンしてみれば? そしたら嫉妬深い海藤君だもん。焦るって」
 なんか思い込みだけでどんどん話が進んでるけど、まぁイメチェンはしても全然悪くない。良い機会だし、やってみようかな。
「じゃあ綾ちゃん。服、服買いに行こう」
「思い立ったらサザエさん家並みの行動力ね、アンタ」
「いいじゃん。行こう行こう。なんにしても綾ちゃんは付き合ってるんだもん。大人っぽい服買って、ぶちゅーっと行きなさい!」
「ぶちゅーってどういう意味よっ」

 という事で、近くのジャスコへ行き、色々な服屋を見て、なるべく色っぽい服を選ぶ。
 ・・・・・・見てたら、なんかテンション下がってきた。こんな露出の高い服、私に似合うかな? 似合わない。絶対無理。
「玲ちゃん。私なんかどうせ、くまさんのパーカーとか着てればいいんだよ・・・・・・」
「何いきなり落ち込んでるのよ。黒船に撃たれるのはまだ早いから。ていうか、綾ちゃんって結構服のセンス良いじゃん? そのスカートなんか変わった
デザインだし、ブラウスもカットソーもTシャツも、いっつもそこらへんの子よりオシャレに決めてるよ」
「そうかなぁ。ね、玲ちゃん。これは?」
「え。それキャミソールじゃん。き、着た事ないよ」
「でもでもっ。若いうちにさ、背中とか見せておこうよ。どうせ私ら、二十五超えたあたりからはもうキャピキャピしてらんないのよ。ねぇ、人生って長いけど
さ、一番楽しくてなんでもアリで、そして何でも出来て、まだ色々な事を広い視野で見れる年齢ってのは、凄く少ないんだよ。私ら、もう卒業しちゃうんだ
よ。若いうちにこういうの着ておこう。見なさいよあっちの婦人服売り場。おばさんになったら、あんなダサい服を着るのよ。おっそろしい」
「た、確かにあれは恐ろしいね・・・・・・。よ、よし。それとりあえず保留」
 そのキャミは、スパンコールキャミソールって奴で、シンプルなデザインだけど黒色で、大人のお姉さんに似合うような服。当然、露出は多い。
 やっぱ、服を買うのは楽しい。私らは今制服だけど、私服じゃないと自分を出せない。制服は自分を押し込めるものだ。まぁ、うちの高校の制服は可愛
いから良いけど。
 で、ふと思う。
「ねぇ玲ちゃん。私らもう十八じゃん?」
「そうね」
「たまに、中学生とか見て焦るんだ。あ、ヤバイって。自分、もう制服着なくなると思うと、中学生とか、まだあどけない高一とか見るとね、私おばさんだな
ぁって思うの」
「だよねー。筋肉痛の治りも遅くなったし、家で寝てたいと思うことも多くなったわ」
「うんうん。座るときによいしょとか言ってる自分が悲しくなる」
 そうやって話ながら服を選ぶ。
「このワンピ、色が鮮やかでオシャレなデザインじゃん? で、この上にこういう小さいベストをちょこんと羽織れば良い感じになりそう」
「あ、そのワンピ、なんかピンときた。ギャルって感じのデザインだよねー。安いし、買う!」
「それとこの黒と赤のチェックのスカート」
「うんうん。それも可愛いねぇ。・・・・・・ってみじかっ。絶対これ見えるよ」
「いいじゃん。綾ちゃん足細いし綺麗だし。だからこそ、こういうの着ないと。海藤君が足フェチなら喜ぶよ」
「駿は足フェチなんかじゃないよ! 多分」
「冗談だって。なーんか綾ちゃん見てたらからかいたくなるんだもーん」
 なんか、玲ちゃんにはいつもからかわれてしまう。まだまだ私は子供だからなぁ。まぁ、玲ちゃんは冗談を言いつつも、私に似合う服を見事にチョイスし
てくれる。そして組み合わせとか、真剣に考えてくれる。
 凄く真面目で、根は純粋。でも、全然カリカリしてなくて、冗談言ったりふざけたりもする。そういうメリハリをしっかりとつけれる玲ちゃんは好き。真面目
と面白さ、ユーモアを兼ね揃えていて、気品もある。
 玲ちゃんと友達になれて本当に良かった。
「ねぇ、綾ちゃんって体のどこに魅力感じる? 対象は男で」
「んー。手のゴリゴリしてる部分」
「ゴリゴリって・・・・・・。意外なフェチね」
「そう? 玲ちゃんは?」
「見て良いなと思った所は全部」
「それはそれでなんかアレよね」
 結局、玲ちゃんが進めてくれたワンピ、ベスト、ミニスカート、Tシャツを買った。かなりの出費だったけど、良しとする。駿が少しでも良いなと思ってくれる
ならお金はいくらでもかけれるし、海底に綺麗なアクセサリが沈んでいるなら潜って取りに行ってもいい。
 私達は服を買い終わると、ジャスコにあるレストラン街で適当に食事をすることにした。結構時間は遅いけど、近くの高校の生徒達が雑談をして盛り上
がっている。
「ねぇ綾ちゃん。海藤君と、今どういう付き合い方してるの?」
「私からはほぼ毎日メールしてるし、一緒に学校行って帰って、あと前よりも密着して歩くようになった」
「そこが問題なのかなぁ」
「えっ」
「貴方たちは特別だと思う。だってこれまで磁石みたいにくっついてたんだもん。だから、恋人になっても何かが大きく変わるわけじゃない。むしろ、ピッタ
リしてる時間が多くなってる。でも、それだと海藤君、もう綾ちゃんが当たり前になってるの。嫉妬してくれて、心配してくれて、優しくしてくれて、一緒に歩
く。ありがたみっていうか、そういう当たり前の楽しさっていうのが、もう普通になってるの。だから、付き合い始めてこういう事するのおかしいけど、メール
を送るのを止めたり、友達と帰ったりしてみれば?」
 言えてると思う。私は、あまり駿から好意のある態度を見せられたことがない。恋人になっても、頭を撫でたりしてくれない。せっかく高いトリートメントに
変えて髪をサラサラにして、触り心地良くしたのに。
 なんだか悲しい。でも、確かにくっつきすぎも良くないかもしれない。
「別に海藤君を試すわけじゃないけど、そういうのも必要だと思うよ。・・・・・・ごめん、私失礼かな」
 急に落ち込んだ顔になる玲ちゃん。そ、そんな! どうして謝るの。いつも相談に乗ってくれて、すぐに助けてくれて、服もいいのを選んでくれて、私は玲
ちゃんに頼りっぱなしになってるくらいなのに、なんで謝るの。
「あ、謝らないでよ玲ちゃん。言う通りだと思う。こういうのは難しいけど、私は駿から来てほしい。ちょっと、メールとか色々と、自分からするの止めてみ
る。だって、あんまり一方的だとむなしいもん」
 玲ちゃんは、ちょっとだけ笑ってくれた。
 よし。今日も明日も明後日も、メールしないぞ。

 本当に三日メールしなかった。一緒に学校行かなかった。ただ、あんまり急に離れるとアレだから、下校はちゃんと二人で帰った。
 そして四日目の学校。今日はメールどうしようかなと思いながら帰りのホームルームでぼーっとしていると、駿が私をぼーっと見ているのに気づいた。
「なに?」
「え。いや。ちょっと瞑想を」
「瞑想?」
「突っ込むのかよ。別に、なんでもないよ」
 どうしたんだろう。
 ホームルームが終わると、駿はこっちにてくてくやってきて、「帰ろう」と、小さい声で言った。
 珍しい。駿が自分から誘ってくるなんて。
 いや、違う。これまで、ただ単に駿が言う前に私から言ってただけかもしれない。駿帰ろう! 駿遊ぼう! ずっと言い続けてた。それで勝手に不安にな
ってたけど、駿だって帰ろうとか、思ってくれてたんだ。
 いつもの道を歩きながら、音楽の話をしていると、駿はいきなり黙りだした。
「どうしたの?」
「あのさ。俺、なんか悪い事したか」
「へ?」
「いや。急にメール来なくなって・・・・・・。自分から送ろうとも思ったけど、なんか、ほら。いつも白井・・・・・・。じゃなくて綾の方から送ってくれてたから、色々
考えちゃって。もしかして、前に綾が作ってくれた弁当に入ってたピーマン残したのがダメだったのか」
「んな訳ないでしょ!」
「そ、そうか。じゃあ、ピーマンこれからも残していいんだな」
「んな訳ないでしょ! ちゃんと食べなさい。と、とにかく。別に意味なんてないもんねー。ただ、メール面倒くさくなっただけだもーん」
「え、白井。それって、やっぱ俺が嫌なのか」
 悲しいような、嬉しいような。私の気持ちが理解されていなくて悲しい。でもそれと同時に、私の事で必死になってくれてヤバイくらい嬉しい。抱きしめた
い。
「なぁ、白井」
「は?」
「あ、ごめん。あのさ、綾。俺なんつーか、急にメール来ないとなんか不安になって。もう俺とメールは嫌か」
「え。あ、いや。嘘だよ嘘。ただ、駿からもメール欲しいなと思って・・・・・・」
 駿の顔が赤くなる。照れてる。可愛いなぁ。頭撫でてあげたい。
 空を見上げる。夕日。寂しくなる夕日。でもこの上なく綺麗な夕日。
 いつもの街並み。でも駿と歩けば、普通の街も天国に見える。天国がどんなのかは知らないけど。
 全てが明るく見えるのに、どうしてこんなにもどかしくて、たまに痛くて、でもこんなに楽しくて幸せなんだろう。駿となら、どこへでも行ける。絶対行ける。
「ねぇ、嫉妬した?」
「え・・・・・・。あー、うん。まぁ」
「やっぱ? どんどん嫉妬してよ。私も嫉妬するから」
「よくそんな恥ずかしい事言えるな、お前」
「いいじゃんいいじゃん。あ、ねぇ。小学生の時さ、私が漫画雑誌をクラスのカッコいい男子に貸したんだけどさ。その時私、その男の子のことカッコいい
って言ったと思うんだよね。その時駿、嫉妬して凄い怒ったでしょー」
 駿は難しい顔をして考え込みだした。頑張って思い出してるんだろう。
「確かに怒った記憶はあるけど・・・・・・。その雑誌、なんて名前だ」
「えーと。少年エトゥタン」
「エトゥタン・・・・・・。あ! その雑誌。確か小六の時に読んでた」
「あ、覚えてる?」
「つーか、もしかしてその貸したって雑誌、増刊号だろ」
「え? よ、よく知ってるね」
「バカ野郎! それは俺がお前に貸した雑誌だ」
「・・・・・・え?」
「その増刊号、発売されたのは確か小五の時だよ。で、お前に貸したのも小五だ。そしてお前はそのまま俺に返さないで、あろうことか自分の物だと思い
込んで友達に貸してたんだ。増刊号で読みきりばっかりだから、いつでも読めるしな。一年経っても雑誌を返さず、しかもその雑誌を友達に貸してたら、
誰でも怒るだろ!」
 れ、玲ちゃーん! 私らの推測ぜんっぜん見当違いだったよーっ。ていうか本当にゴメン。ただ、私が大事なことを忘れてただけだった。
「あ、ご、ごめん駿。本当にごめん。忘れてた!」
「小学生の時の事を、十八歳になって謝るなよ・・・・・・」
「う、うん。でもゴメン。嫉妬してるかと思ってた」
 駿はニコリと笑うと、小さな声で言った。
「俺の貸した雑誌を、自分のものだと思い込んで友達に貸して、しかもその貸した奴がイケメンの男子だったら、更に腹立つだろ?」
 気づくと私は、駿の腕の中にいた。そして……。



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